ひびつみ
COLUMN

感情ラベリングとは
気持ちに、一語の名前をつける

2026年6月 ・ ひびつみ開発チーム

「なんだか、もやもやする」。そう感じるとき、その気持ちがいったい何なのか、自分でもよく分からないことがあります。怒っているのか、疲れているのか、さみしいのか。名前のつかない気持ちは、ぼんやりと大きく、扱いにくいものです。

感情ラベリングは、その「なんとなく」に、一語の名前をつけてみる小さな試みです。心理学でも知られた考え方で、特別な道具も、長い文章も要りません。この記事では、感情ラベリングとは何かをやさしく整理したうえで、なぜ名前をつけると少し気持ちが扱いやすくなるのか、どう続ければいいのか、そして名前をためて見返すと自分の何が見えてくるのかを、順番に見ていきます。気分の不調を治す話ではなく、自分の気持ちにそっと気づくための、軽い記録の話です。

感情ラベリングとは — 気持ちに、一語の名前をつける

感情ラベリングとは、いま感じている気持ちに「これは〇〇だ」と名前(ラベル)をつけることです。心理学では affect labeling(感情への命名)として知られ、自分の感情を言葉にして表すことを指します。

たとえば、理由もなくいらいらしているとき、「これは焦りかもしれない」と置いてみる。胸のあたりが重いとき、「さみしさ、かな」と言ってみる。大切なのは、感情をきっちり分類して正解を当てることではありません。形のない気持ちに、言葉という取っ手をひとつつけてあげる。それだけのことです。

自分の気持ちを言葉にして眺める姿勢は、内省メタ認知とも地続きです。ただ、感情ラベリングはもっと手前の、「いまの気持ちに一語をあてるだけ」という、いちばん小さな入り口だと考えるとよいでしょう。

なぜ名前をつけると、少し扱いやすくなるのか

名前のない気持ちは、実際より大きく感じられがちです。「なんだか不安」とぼんやり抱えているより、「明日の発表が心配なんだ」と言葉にできたほうが、気持ちの輪郭がはっきりします。輪郭が見えると、それは「自分のすべて」ではなく「いまの自分の一部」として、少しだけ眺めやすくなります。

ただし、これは感情を消したり抑えたりする技術ではありません。名前をつけても、怒りや悲しみがなくなるわけではないのです。ねらいは気持ちを「なくす」ことではなく、「見えるようにする」こと。雨の日に傘をさしても雨はやみませんが、濡れずにすむ——そのくらいの、ささやかな助けだと考えるのがちょうどよいと思います。

やってみる — 一語でいい

やり方は、とても簡単です。いま感じている気持ちに、ぴったりでなくていいので、一語をあててみる。それだけです。

  1. 立ち止まって、いまの気持ちに意識を向ける(数秒で十分です)。
  2. 「これは何だろう」と、一語をあててみる。「もやもや」「ほっとした」「いらだち」「さみしい」——曖昧な言葉でかまいません。
  3. 言葉が見つからなければ、大きく「快/不快」と「強さ(10点で何点くらいか)」だけでも十分です。

細かく正確に分類しようとすると、かえって手が止まります。最初は語彙が少なくて当然なので、同じ言葉ばかりになっても気にしないでください。続けるうちに、自分の気持ちを表す言葉は少しずつ増えていきます。気持ちにうまく言葉が出てこないときは、心の天気のように「晴れ・くもり・雨」と天気にたとえる手もあります。

名前をつけた“あと”が、ほんとうは面白い

感情ラベリングは、その場で一語つけるだけでも、いまの気持ちを少し整える助けになります。けれど、つけた名前をためて、あとから見返すと、もうひとつ別の景色が見えてきます。

たとえば、二週間ほど一語ずつ残してみると、こんなことが起こります。並べてみると「いらだち」が水曜と木曜に多い。よく見ると、どちらも翌日に会議がある日でした。自分では「なんとなく週の後半はしんどい」と思っていたのが、「会議の前日に焦りが出る」という、もっとはっきりした形に変わる。一日ずつ眺めていたら気づけなかったことが、名前の集まりとして浮かんでくるのです。

こうして自分のデータをためて、傾向にそっと気づいていく姿勢はセルフモニタリングとも重なります。これは誰かの一般論ではなく、あなた自身の記録からしか出てこないものです。気持ちを点として残し、ためて眺めることの意味は気分を記録すると、何がいいのかにもまとめています。

名前が出ない日と、つらさが強いとき

毎日きちんと名前をつけられなくても、まったく問題ありません。「今日はよく分からない」も、立派な一つの状態です。無理にひねり出すと、それ自体が窮屈になって続かなくなります。出てこない日は「わからない」と置いて、先へ進んでかまいません。

そして、ひとつだけ大事なことを。気持ちの落ち込みやつらさが強い、あるいは二週間以上続いていると感じるときは、一語の名前をつけて眺めるだけで抱えようとしないでください。信頼できる人や、専門の相談窓口に話してみることも、立派な対処のひとつです。たとえば、こころの不調について電話で相談できる「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」や、働く人向けのこころの耳といった公的な窓口があります。気持ちの記録とのつきあい方や相談先についてはメンタルログとはでも触れています。記録は、あくまで自分にそっと気づくための道具であって、誰かに相談することの代わりではありません。

よくある質問

Q. 感情ラベリングと、ふつうの日記は何が違いますか?

日記は、その日の出来事や気持ちを文章で残します。感情ラベリングは、もっと範囲をしぼって「いまの気持ちに一語の名前をつける」ところだけを取り出したものです。文章を書く必要がないぶん、書くのが苦手な人や、忙しい日でも続けやすいのが特徴です。日記の中に一語のラベルを添える、という使い方もできますし、ラベルだけを軽く残していってもかまいません。

Q. 正しく分類できているか、自信がありません。

正確に分類することは目的ではないので、自信がなくて大丈夫です。ねらいは、形のない気持ちに言葉という取っ手をひとつつけて、扱いやすくすること。「もやもや」「なんとなく不快」といった曖昧な一語でも十分に役目を果たします。むしろ、ぴったりの言葉を探して悩みすぎないほうが、長く続けられます。

Q. 名前をつけると、その感情にとらわれてしまいませんか?

言葉にすると、かえって自分と感情の間に少し距離ができ、一歩引いて眺めやすくなる、と言われています(自己距離化)。ただし、無理に「なぜこう感じるのか」と理由を掘り下げて意味づけしようとすると、苦しくなることがあります。まずは名前をつけて、そっと眺めるところまで。掘り下げは、したくなったときだけで十分です。

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ひびつみ — 書かない日記

気持ちに名前をつけて残したくても、毎日ノートを広げて文章を書くのは、それ自体が少し重いものです。ひびつみは、その日の気分を5段階から選んでタップし、やったことをタグで残すだけ。気持ちの名前は、書きたい日にひとことを添えれば十分で、10秒あれば終わります。この記事でふれた「名前をためて見返すと、自分のクセが見えてくる」も、自分で表を作る必要はありません。続けるうちに、週に一度「散歩した日は気分が平均より上向きやすい」のように、あなたの記録から見えた事実だけが返ってきます。励ましも占いもなく、褒めも採点もしません。記録は端末内に保存されます。

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